5/20 公開講座2017「なくそう職場のハラスメント」報告 [2017.9.8]

5月20日(土) 京都テルサにおいて、NPO法人メンタルサポート京都2017年度「公開講座」を開催しました。働く人たちのメンタルヘルスについて広く市民に知っていただく場として、2011年から毎年開催し、今回で9回目となりました。

○今後ともメンタルヘルスに関するサポートを広げていきたい 吉中丈志 理事長があいさつ

最近、メンタルサポート京都に寄せられる相談・研修依頼には、職場のハラスメントに関するものが多くなっています。開会にあたって吉中丈志理事長は「ようやく自殺者が3万人を下回る状況になってきたが、若い人の自殺が高い水準のままになっている。こうした状況をふまえて、今回パワハラをとりあげた。皆さんとともに、メンタルヘルスに関するサポートを広げていきたい」とあいさつしました。

-働きやすい職場づくりがカギ-

メインの講演は「なくそう職場のハラスメント-現状と解決への道筋」というテーマで、兵庫県こころのケアセンター山本沙弥香さんに講師をお願いしました。

山本さんの講演は以下の様な概要でした。

(1)パワハラの実態 = 2012年の厚生労働省の提言で「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をパワハラと規定している。全国の労働局への労働相談のうち「いじめ、嫌がらせ」に関するものが増え、相談件数の27%にのぼり一番多くなっている。また別の資料では、民間企業で過去6か月に1回以上パワハラを受けたと答えた従業員は15.6%、中小企業では19.7%、自治体では9%。3年間で1回以上のパワハラを受けたと答えた従業員は32.5%にのぼり5年前の調査と比較しても増加しており、ヨーロッパでの調査と比較しても高くなっている。

(2)パワハラがもたらす心身へのリスク = パワハラは、段階的にエスカレートしていくもので、長引くほどストレスによる心身への悪影響が及ぶ。パワハラを受けた人は、受けていない人に比べて、「抑うつ症状のリスク」は8倍、「心臓病のリスクは2.4倍」、「パワハラを受けた人の76%にPTSD症状」など様々な研究からパワハラが 精神・身体健康に影響をもたらすことが示されている。

(3)いじめの構造 = いじめの構造は、単なる被害者・加害者という関係だけではなく、その周りに「観衆」=いじめを肯定、「傍観者」=見て見ぬふりが多数いる。被害者は「恥ずかしい」という気持ちや「自分が悪いから」という罪悪感から、積極的に解決のための行動をとることが難しくなる。また加害者は、自分の行為が「パワハラ」だと認識していないことが多く、認識があったとしても、周囲からの介入がないことで、行為を「許されている」と感じ、エスカレートする。「観衆」は、自分が次のターゲットになるかもしれないという恐怖から加害者の行為に積極的に加担することになる。加害者の行為に接することで、してはいけないことの境界線が緩くなっていく。「傍観者」も、自分が次のターゲットになるかもしれない恐怖から、手助けしたくても、被害者に手を差し伸べられなくなる。被害者と同様、慢性的にストレスにさらされており、メンタルヘルスが悪化しやすくなる。

(4)パワハラ対策は働きやすい職場づくり = 予防のためには、組織のパワハラに関する理解を深めることが必要。もっとも大切なのはトップの理解。職場でパワハラに関するルールや発生時の対応について明文化し、従業員に周知すること。ルールを作ることで発生時に一貫した対応が可能になる。また「傍観者」を「協力者」にする理解の底上げの教育、相談窓口を設けることも必要。
 併せて職場のストレスの状況を理解することが必要。パワハラは職場の様々なストレス要因が絡み合った結果発生するもの。パワハラの訴えがあがった時には、加害者と被害者だけの問題としてではなく「職場全体の問題」としてとらえることが重要。よって、パワハラ対策に特化するのではなく、「働きやすい職場作りを行う」ことが結果的に、「メンタル不調の減少」「パワハラの減少」につながる。

- 話し合える、話せる職場風土をつくろう -

実践報告には「労災相談から見えるハラスメントの実態」というテーマで京都労災職業病対策連絡会議事務局長 芝井公さんにお願いしました。

○パワハラを許さない職場風土づくり

精神疾患の労災申請は増えている。職対連での相談の中でも精神疾患が一番多いが、労災申請に至らないケースも多い。被害を重篤化させないためにも、パワハラの早期の中止要求ができる職場風土の形成、まずは相談窓口づくりなどを進めることが出発点。

この講座には約70名が参加。講演、報告のあと、フロアからの質問にも答えていただきました。参加者からは、「発生から、対応、取り組みについて話してもらい、参考になった。ハラスメントが起こらない風土作り、会社の取り組みが大切だと感じた」「内容がとてもわかりやすく、パワハラが職場や組織をダメにしてしまうことであることがよく理解できた。専門家の人の話はとても為になると感じた」「基本的な内容、パワハラをなくすためにどうしたらよいのか、方向性が示される研修だった」などの感想が寄せられました。

この講座を機に、快適な職場作り、恒常的・計画的なメンタルヘルスケアが進むことを期待し、今後もこのような学習の場を計画していきたいと思います。